元警察官の視点!連日報道されているストーカー事件をどう見る

 連日にわたり、テレビなどで報道されているストーカー事件ですが、警察の対応に問題があったのではないかと言われております。

 弊所には、元警察官の行政書士である私のほか、本年3月まで、警察官としてストーカー対策係の第一線で勤務していた補助員がおりますので、ストーカー事件の裏で何が起こっていたのか、問題点などとして考えられることを挙げていきたいと思います。

 大前提として、警察の対応に問題があったとしても、最大の悪人は、遺体を遺棄した犯人であることをご理解ください。

 まず、今回の事件を防ぐことができなかったのか・・・という点に関しては、積極的な対応を前提として、防ぐことができた可能性は十分にあり得たのではないかと考えます。

 既にワイドショーなどでは、警察の措置に対する問題点として、①被害届を取り下げた際の対応 ②9回にわたって警察へ通報した際の対応 ③窓ガラスが損壊されていた際の対応 が挙げられています。

 この3点については、既に専門家が話しているとおり、もっと掘り下げて聞くべきであり、積極的な対応をすべきだったと言えます。

 しかし、このような事実が明らかになった以上、後から警察の対応を評価する上では、『対応に問題はなかった』と評価する人は誰一人いないでしょう。

 それでは、もっと切り込んで話していきたいと思います。テレビなどの多くの方が見られるメディアではありませんし、あくまで、本ホームページ上での個人的見解ですので、ご容赦いただきたいと思います。

 私が考える最大の問題点は、『対応の遅さ』です。

 ストーカーやDVなどを取り扱う人身安全対策課は、常に最悪の結果を想定しておかなくてはいけない部門であります。

 その理由は、最悪の結果の終着点は、殺人事件だからです。ストーカーもDVも殺人事件に繋がる可能性が十分にあります。

 だからこそ、その最悪な結果を視野に入れ、物事を判断を適切かつスピーディーに行わなければなりません。

 これまでにも、ストーカー事件は、誰も予想できないような急展開を見せ、重大事件へと発展した事例は多く存在します。

 その事件が起きるたび、二度と同様の事件を起こしてはいけないと法律が改正されたり、事案の対応策が改善されてきました。

 数年前に改正された現在のストーカー規制法は、見張りやうろつき、SNSへの投稿、GPSの規制など、現代の流れに沿うような内容となっており、法律の抜け目を突くようなことは難しくなった印象です。

 したがって、あとは警察官個人の判断能力が重要だということが言えます。また、万が一、個人的な判断が誤っていた場合に備え、組織的な対応を行うこともセオリーとなっているため、警察のストーカー対応は、嘘がつけない状況となっています。

 真相は分かりませんが、今回、対応の遅さが露呈していると言える重要なことが一つあります。

 それは、家宅捜索のタイミングです。

 報道されている内容を総合すると、被害者が行方不明になった後、家族がストーカーとして犯人を捕まえてくれと訴えているものの、警察は、『被害者本人がいないから事件として扱えない』というような回答をしています。

 しかし、4月30日に行われた家宅捜索は、『ストーカー規制法違反』という罪名のもとに行われたものでした__

 私は、ここに大きな疑問を抱きました。

 犯人が被害者に行ったストーカー行為は、少なくとも被害者が行方不明となった12月20日までに行われたものであり、それまでに何度も反復して行われた行為であることは言うまでもありません。

 それに、報道でもあるとおり、避難先の祖母宅付近をうろつく動画が撮影されていましたし、SNSに脅迫的な内容が投稿されていたことも知人などの証言から分かっています。

 ストーカー規制法でいうストーカー行為とは、反復してつきまとい等を行うことです。

 つまり、①避難先をうろついた行為 ②SNSへの脅迫文言の投稿 によって、反復行為が成立しており、被害届が提出されていないにしても、被害者から9回にわたって通報を受けた時点において、ストーカー事件として立件するべきであったと考えます。

 正直に言えば、ストーカーの被害者から被害届を受理することは非常に難しいものです。理由は、もともと犯人は被害者にとって好意を抱いていた人物であり、その者を処罰してほしいという気持ちを形にする被害届はなかなか提出してくれないことが多々あります。

 しかし、そのような被害者に対しても、将来的な危険性を丁寧に説明し、被害届を提出してもらうように説得します。

 なぜ、このタイミングの家宅捜索になったのでしょうか。

 12月20日までに、家宅捜索をしていたらどうでしょうか。

 また、被害者が行方不明となった後、犯人の自宅を捜索した際、任意の捜査だったので、床下まで確認できなかったと言われていますが、その時点において、既に家宅捜索ができたはずです。

 3月下旬、犯人がつきまとい行為を認めたと言いますが、それから1か月も経った4月30日に家宅捜索となった原因は何なのでしょうか。まったく分かりません。

 もちろんですが、警察は、今回の結果を重く受け止めなければいけないと思います。

 ストーカーの対応は、警察官としての能力が問われると思っています。

 それは、相談しに警察署へ行ったタイミングで、対応してくれる警察官が違うため、その場その場で対応方法に違いが出ることがあるということです。

 皆様の職場にもいらっしゃるでしょうが、仕事に積極的な人と消極的な人が警察内部にも存在します。

 対応する警察官によって対応が変わるということは少なくとも無くしていかなくてはいけないことでしょう。

 いずれにしても、今回の事件については、対応の遅さがすべてです。

 ストーカー事案で、被害者が事実とは異なることを話したり、被害者という立場であるはずなのに、警察の捜査に協力しない、非協力的で横柄な態度を取るなどといったことはよくある話です。

 それでも、警察としては、捜査に協力してもらうように説得するしかないのです。

 それができなかったら、たとえ、何かしていたとしても、世間からは、警察が何もしていないと言われるのです。

 警察官として勤務していた時、不作為を責められたら終わりだと思っていました。復縁や離別を繰り返すことは勝手にすればいいとは思っていましたが、警察がこれをしなかったから、あいつは殺された、警察がこれをしていたら、あいつは生きていたなどと言われることは絶対にあってはならないと思っていました。逆を言えば、警察としてできることをすべてしていれば、被害者や犯人が勝手な行動をして何かが起こったとしても仕方がないと思っていました。

 今回のケースはどうでしょうか。警察がすべてをしたと言えるのでしょうか。

 たった今、ニュースで、男はつきまといを12月末の時点で認めていたと流れてきました。

 真相が明らかになるのは、もっと後になりそうです。